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2004/11/05 | 2004/11/09 |
 | きれいにオレンジ色になったヘクソカズラ
Paederia scandens |
このブログではこれまでに2度この植物が登場しています。今回はヘクソカズラの今の様子をレポートしようかなと思っていたんですけど、どうしても気になるのがその名前です。「最初に名前をつけたのは、いったい誰なのか」…これはきっと、この名前を知ったみんなの疑問ではないかと思うんです。わたしも誰なのかなんてわからなかったし、ちょっと調べてみようかなっと、まあ軽い気持ちだったんですけど、これを調べるのは難しくて。。。はずかしいのですが公表します。
ということで、一応、ヘクソカズラの簡単な説明です。
ヘクソカズラはアカネ科ヘクソカズラ属の植物です。東アジアに広く分布し、日本でも全土でごくふつうに見られるつる性の多年草です。ものすごい名前は、この草のもつ独特の臭気からきています。その文字から推測するほどの悪臭とまではいかないですが、真夏の蒸し暑い時期などは草にしてはかなり臭い方のにおいがします。そのにおいにをかぐと他の植物と間違えることはないでしょう。
■過去2回の記事もあわせてご覧いただけるとうれしいです。
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ヘクソカズラ→
ヘクソカズラ(No.2)野生の植物の名前を図鑑で調べると和名のほかに学名が載っていることがあります。学名は国際的な規約に基づいてつけられた世界共通の名前です。一般的な多くの図鑑ではヘクソカズラの学名は「
Paederia scandens」となっています。少し専門的な図鑑だと、「
Paederia scandens (Lour.) Merr.」というふうに書かれています。
「Paederia」は属名(ぞくめい)でラテン語のpaedor「汚れ、汚物」に由来し、「scandens」は種小名(しゅしょうめい)で、「よじ登る」という意味があります。そして「
Paederia scandens」でひとつの種をあらわしています。
このように、「属名+種小名」の組み合わせによって生物の種をあらわす方法を
「
二名法」といいます。この方法を最初に提唱したのは、スウェーデンの植物学者カール・フォン・リンネ(Carl von Linne)です。
学名の後にはその命名者の名前がつづきます。( )の中の人が最初の命名者です。「Lour.」はLoureiro、「Merr.」はMerrillという人の名前の略記です。このように学名を詳しく見ると、その植物の分類学的な名前の変遷を知ることが出来ます。
これは推測ですが、最初の命名者Loureiroはどうもこれを、
Gentiana scandensと命名したようなんです。「Gentiana(Gentiusという王の名前からきているとか)」…つまり、リンドウ属の植物として発表したようなんですね。それをあとから、Merrillが「Paederia」に属を変更したようです。調べた内容と学名からはこんな感じに読み取れました。
ということで、においから連想する名前(
Paederia)をこの植物に与えた最初の人はMerrillということになるのかな。しかし、日本人ではないので、命名の際に標準和名(1つの学名に1つ定めた和名)はつけていないでしょう。といっても、学名と和名はまったく別のものなのだから、こういうお話は今回はまったく関係ないはずでした。今のところ標準和名はしっかりと定まったものではないようですが、今後は、1つの学名に対して1つの標準和名を決める方向のようです。
では、「ヘクソカズラ」という和名はいったい誰がつけたのでしょう?
ヘクソカズラは、万葉集の中でもすでに「くそかずら」で登場して、各地の方言でも「へくそばな」とか「くそねじら」などといわれていたとか。つくづく散々な言われようです。
リンネが二名法を提唱したのは1700年代。一方「くそかずら」といわれるようになったのは万葉のころ。その後いつごろから「へくそかずら」になり、定着したのかはわかりませんが、学名よりは歴史が長かったようですね。別名に「サオトメバナ」、「ヤイトバナ」などがありますが、万葉集にこれらの名前で登場したという話はきいたことがないです。
現在、一般的な図鑑では、「ヘクソカズラ」がごく当たり前に使われていて、「サオトメバナ」や「ヤイトバナ」は別名として付記されていることが多いと思います。でも、「ヤイトバナ属ヤイトバナ」で掲載し、「ヘクソカズラ」は別名扱いになっている図鑑もありました。もし、属和名も含めて「サオトメカズラ」や「サオトメバナ」をトップで掲載している「植物図鑑」がありましたらぜひお知らせくださいませ。
「和名」というものが、だいたい学術的に定めらたものでなくて慣用的にそういわれるようになったものなので、どれを採用しようがいいのでしょう。あまりにかわいそうな名前だから、今後「サオトメカズラ」や「サオトメバナ」とたくさんの人が呼び続けて、こちらの方が広く一般的になれば、後世では「ヘクソカズラ」とはあまり呼ばれなくなるのかもしれません。
しかし、思うんです。その名前でなかったら、特にこの植物に注目したり、名前を覚えたりしないんじゃないかって。だって、花はかわいく見えまけど、蔓がはびこって厄介な雑草ともいえますから。
まあ、結論としては、「ヘクソカズラ」と最初に命名したのは誰なのかは、はっきりわからなかったということです。しいて言うなら、万葉集で
皀莢(そうきょう)に延(は)ひおほとれる屎葛(くそかずら) 絶ゆることなく宮仕へせむ
と詠んだ「高宮王(たかみやのおおきみ)」がその名を公にしたということでしょうか。しかし、この段階では、まだ、「くそかずら」です。その後、「へ」まで付け加わってしまっています。
方言(地方名)もそうだと思うのですけれど、その独特のにおいに気づいた人たちが、何となくそう呼んでいたのが定着していったということなんでしょう。しかし、「ヘクソカズラ」という名前を広く世間に植えつけた人はきっといるはず。日本の学者さんだと、中井猛之進さんや原寛さんを疑っていますが、まったく確証はありません。
結局なんだかわからないのに長々とすみませんでした。これは学名とか調べるのではなく、方言とか民俗学とか薬草とか、そちらの方からのアプローチがいいのでしょうね。
【和名】ヘクソカズラ [屁糞葛]
【学名】Paederia scandens【科名】アカネ科 RUBIACEAE
【撮影日】2004/11/09
【撮影地】東京都日野市
[追記]
もしご存知の方がおられたら教えていただきたいのですが、よく属名の「Paederia」がラテン語の「paidor(悪臭)」が語源だとありますよね。しかし、手持ちの「羅和辞典」と「植物学ラテン語辞典」には「paidor」が載ってないのです。だから、「paedor(汚れ、汚物)」としているのですけれど。本当のところはどうなのでしょう。
[余談]
ヘクソカズラの花の色、あれ、何かに似ているっと思いながらもずっとわからなかったんですが、思い出しました。それは、樹木にくっついている白いカイガラムシをこそぎ落としてひっくり返したときの色だった。ギャ〜!
posted by hanaboro at 21:53| 東京 🌁|
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花後図鑑
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